甲状腺の外科的疾患
① びまん性甲状腺腫
甲状腺全体が腫れているのを「びまん性甲状腺腫」といいます。橋本病、バセドウ病、単純性甲状腺腫などがあります。どちらかといえば内科的な疾患になります。
② 結節性病変
甲状腺で外科的な疾患というと、甲状腺にしこりのような影があり、超音波検査や細胞診を用いて診断していくものになります。
しこりのように見える影を結節といいます。結節は腫瘍とは限りません。中身の詰まった腫瘍も結節なら空洞で液が溜まった嚢胞も結節です。超音波検査では結節内部の構造や血流などを観察します。
結節については、腫瘍か腫瘍でないか、腫瘍だとすれば良性か悪性か、と考えます。
- 本当の腫瘍ではないもの(嚢胞、腺腫様結節)
- 良性腫瘍(濾胞腺腫)
- 悪性腫瘍(甲状腺癌や悪性リンパ腫)
②−1 腺腫様結節・腺腫様甲状腺腫
甲状腺内にできる結節の中で、最も多いのが腺腫様結節です。一見、腫瘍のように見えますが腫瘍ではなく、正常の細胞が集まってできた「過形成」です。単発のものを腺腫様結節、複数生じて甲状腺全体が腫れているものを腺腫様甲状腺腫といいます。
腺腫様結節は本来の病気ではなく、放置して構わないのですが、濾胞腺腫や濾胞腺癌と区別しにくいケースが多く、そういうケースでは細胞診を行った上で経過観察を行います。
ただし、細胞診自体の精度はそれほど高くありません。乳腺の場合は針生検で甲状腺の場合、乳腺と違って出血リスクが高いので、針生検で組織を採取することはせず細胞診で経過をみます。細胞診は針が細くトラブルを起こすことは皆無ですが、細胞診自体の精度が低いのが難点です。
腺腫様結節や腺腫様甲状腺腫は時間とともに徐々に増大するケースが多く、甲状腺癌を否定できない場合や、増大による症状が出ている場合は、診断と治療を兼ねて手術になるケースもあります。
②−2 甲状腺嚢胞
嚢胞は空洞に体液が貯留したものです。甲状腺には嚢胞がよくできます。単純な嚢胞は病気として扱いません。体質的にたくさんの嚢胞を持つ人もいます。腺腫様結節や腺腫様甲状腺腫には嚢胞が合併することが多く、関連があるとされています。
嚢胞の多くは治療の必要はありませんが、穿刺をして内容駅の細胞診を行うこともあります。穿刺して内容液を抜いても、すぐに溜まるケースでは、PEITといって排液したあとの嚢胞に少量のエタノールを注入し、嚢胞壁にダメージを与えるような治療を行うこともあります。
②−3 甲状腺嚢胞PCTD
甲状腺の嚢胞が多発するケースで、甲状腺機能が低下し、橋本病を疑って抗体検査を行なっても抗甲状腺抗体は陰性というケースがあります。こういうケースをPCTD(policystic thyroid disease)と呼びます。最近提唱された新しい概念で、ヨードの過剰摂取が原因ではないかと考えられています。
②−4 甲状腺機能性結節
甲状腺の結節には機能性結節といって、甲状腺ホルモンを過剰に分泌する結節があり、この場合は甲状腺機能亢進症が出現します。
検査は放射性ヨード(I-123)や放射性テクネシウム(99m-Tc)を内服して、その結節に取り込まれるかどうかを確認します。甲状腺全体に取り込まれたらバセドウ病、結節だけに集積する場合は機能性結節と診断されます。結節が一つの場合はプランマー病とも言い、複数あるときは中毒性多結節性甲状腺腫(TMNG)とも言います。
治療は、手術で切除するのが確実ですが、手術を望まれない方には放射線ヨード(I131)やエタノール注入を繰り返して症状を抑えていく治療(PEIR)も行います。甲状腺癌を併発するケースもあるので手術を勧めることが多いです。
③ 甲状腺の腫瘍(腺腫・癌)
良性腫瘍は濾胞腺腫、悪性腫瘍には、甲状腺乳頭癌、濾胞腺癌、髄様癌、低分化癌、未分化癌、悪性リンパ腫が含まれます。濾胞腺腫と濾胞腺癌は鑑別が難しいのが特徴です。
③−1 甲状腺乳頭癌
甲状腺癌全体の9割を占めるのが乳頭癌です。進行が遅く非常に大人しい癌です。命に関わるリスクも低いのですが、肺や骨に転移して亡くなる方も少数ながらおられます。
典型的な乳頭癌は超音波検査で、もこもこした黒い影として映ります。細胞診では核に特徴的な溝があり、わかりやすい病変です。
遠隔転移は少ないのですが、甲状腺周囲のリンパ節には転移しやすいという変わった特徴があります。頚部のリンパ節に転移があっても手術で取り除けば治ってしまうことが多いのも特徴です。
(参考)微小乳頭癌
1センチ以下の乳頭癌は微小乳頭癌と呼ばれ、超音波検査でしばしば見つかりますが、生涯そのままのことも多く、命に関わるリスクも少ないことから、まずは経過観察することが勧められています。腫瘍が反回神経の近くにあるなど、部位によっては手術を検討します。
③−2 濾胞腺腫と濾胞腺癌
濾胞腺腫は甲状腺の良性腫瘍で、薄い皮膜で覆われた楕円形の腫瘍です。内部に嚢胞変性を伴う場合は腺腫様結節との鑑別が問題になり、充実性の場合は濾胞腺癌との鑑別が問題になります。
濾胞腺腫と濾胞腺癌の区別は非常に困難で、細胞診でも両者の区別はできません。両者を合わせて濾胞性腫瘍といいますが、鑑別するためには手術を行い、切除標本を顕微鏡で詳しく調べ、被膜外への浸潤や血管内へ浸潤している箇所を探す必要があります。そのような所見が見つかれば濾胞腺癌と診断できます。
濾胞腺癌は悪性腫瘍ですが、癌としては大人しいタイプで生命リスクも低いのですが、稀に肺や骨に転移して亡くなられる方もおられます。
③−3 髄様癌
甲状腺癌の中では1%ほどの、比較的珍しい癌です。甲状腺の濾胞細胞由来ではなく、カルシウムを調節するC細胞から発生する癌です。乳頭癌や濾胞癌に比べると悪性度はやや高いです。
甲状腺髄様癌のうち約1/3は家族性です。髄様癌の患者さんで、RETという遺伝子に変異があれば、血縁者にも髄様癌を発症するリスクが高くなります。まずは患者さんの血液でRET遺伝子を調べ、遺伝子変異が見つかった場合は血縁者のRET遺伝子も調べます。RET遺伝子に変異がある人は予防的な甲状腺全摘術が勧められます。
RET遺伝子に変異のある方は、副腎の褐色細胞腫や、副甲状腺機能亢進症などの内分泌疾患を合併することがあり、これらの検査も行います。多発性内分泌腫瘍症2型(MEN2)と言います。
なおMEN1は下垂体腫瘍、膵腫瘍、副甲状腺に腫瘍を発生しやすい疾患群で、MEN2とは別系統の疾患群です。
③−4 低分化癌
人間の細胞は、発生の過程で分裂を繰り返し、特徴のある細胞へと分かれて器官を作り、それぞれの機能を発揮します。これを分化といい、よく分化したものを高分化、あまり分化していない原始的な細胞を低分化、より未熟なものは未分化などと表現します。
癌細胞は体を構成する細胞ではありませんが、癌細胞にも分化度の違いがあり、分化度の高い癌ほど大人しく、未分化なものほど悪性度が高い傾向があります。
先に述べた乳頭癌や濾胞腺癌は分化度の高い大人しい癌なのですが、ときに腫瘍内部に低分化な癌組織が出現し、腫瘍全体が低分化癌に置き換わっていくことがあります。低分化癌に変性すると急速に悪性度を増すため速い段階で手術を行う必要があります。低分化変性は高齢になるほど発生しやすくなります。
③−5 未分化癌
甲状腺未分化癌は、低分化癌よりもさらに分化度が低く、増殖が異常に速いためとても危険な癌です。甲状腺癌全体の1〜2%と比較的稀ですが、高齢になるほど発生頻度が上がります。
来院された時点で手術不能になっていたり、切除しても短期間に再発するなど、手術だけでは救命できないことが多く、最近ではレンビマ®などの分子標的治療薬に抗癌剤、放射線治療を併用するなど集学的治療が行われます。BRAF遺伝子に変異がある症例では、新しい治療薬も期待されています。
③−6 進行した甲状腺癌の治療
甲状腺分化癌(乳頭癌、濾胞腺癌)は転移することの少ない、おとなしい癌ですが、それでも肺や骨に転移する例はあり、そういう症例では放射線ヨードを用いたり、分子標的治療薬を用いて進行を抑える治療を行います。
放射線ヨード(ヨード131)は、転移した癌に集まり、そこで放射線を出して癌を攻撃します。しかし転移巣を消すほどの効果はなく、進行を抑えるのが目的です。アイソトープ治療のできる施設に治療を依頼し、年に1〜2回の頻度でで治療に行ってもらいます。最大10回までと決められています。
分子標的治療薬には、進行した分化癌に対するソラフェニブ(ネクサバール®)、レンバチニブ(レンビマ®)があり、髄様癌に対してはバンデタニブ(カブレルサ®)があります。高血圧や皮膚症状(手足症候群)、嘔気、下痢などの副作用がみられることがあり、副作用に応じた対症療法も併せて行います。