§8 乳癌の治療・紹介先施設
目次
1 乳癌と診断されたら
2 紹介先の施設
3 タイプ別の治療方針
3ー1 ルミナルA・ルミナルB
3ー2 HER2陽性乳癌
3ー3 トリプルネガティブ乳癌
4 乳癌の手術
4-1 乳腺部分切除術(温存手術)
4-2 乳房切除術
4-3 乳頭乳輪温存乳房全切除術
4-4 皮膚温存乳房全切除術
5 腋窩リンパ節郭清とセンチネルリンパ節生検
6 放射線治療
6-1 術後照射
6-2 術後放射線治療の実際
6-3 回数と線量
6-4 放射線の副作用
7 乳房切除後の再建について
8 局所進行乳眼の治療(ⅢB,ⅢC期)
9 病期Ⅳの治療
1 乳癌と診断されたら
組織検査で乳癌と診断されても、それだけでは方針は決まりません。まずは、採取した組織の残りで追加検査を行い、乳癌のタイプ(サブタイプと言います)を決定します。結果が出るまでにさらに1〜2週間かかります。
組織検査の結果を待つ間に、治療できる病院を紹介し、紹介状や資料を作成します。当院の事務が先方の病院と連絡を取って受診日を決定し、予約票と資料をお渡ししますので、予約日に受診していただきます。
組織検査の結果がクリニックに返ってきたら、結果を病院へ送付します。紹介先の病院では、CTやMRIなど各種画像検査や手術前の諸検査を行い、当院から送った組織検査の結果と合わせて治療方針が決まります。
・画像検査で遠隔転移がないか
・化学療法が必要なタイプか
・手術先行か、化学療法先行か
・手術先行なら、温存手術か乳房切除か
などが決定され、以後の流れがきまります
2 紹介先の施設
県立西宮総合医療センター 乳腺外科
県立西宮総合医療センター 放射線治療科
兵庫医科大学病院 乳腺・内分泌外科
明和病院 乳腺外科
明和キャンサークリニック 放射線科
関西ろうさい病院 乳腺外科
宝塚市立病院 乳腺外科
大阪ブレストクリニック
大阪大学医学部付属病院 乳腺・内分泌外科
大阪国際がんセンター 乳腺・内分泌外科
国立病院機構大阪医療センター 乳腺外科
兵庫県立がんセンター 乳腺外科
神戸大学附属病院 乳腺内分泌外科
神鋼記念病院 乳腺科
神鋼記念病院 形成外科
神戸市立医療センター中央市民病院 乳腺外科
甲南医療センター 乳腺外科
神戸海星病院 乳腺外科
紹介する個々の施設につきましては、診察のときにご相談させていただき、状況に即したアドバイスをさせていただければと思います。
患者様によっていろいろな問題があると思いますが、やはり問題になるのは通院の便で、なかでも抗癌剤治療かと思います。抗癌剤不要の人はいいのですが、手術前後でもしも抗癌剤治療が必要となれば、半年から1年以上その施設に通わねばなりません。脱毛や副作用を抱えての通院は負担が大きいと思われますし、突発的に具合が悪くなったとき、遠方で時間外であれば対応に苦慮することもあります。
放射線治療も毎日通院が必要ですが、放射線治療は西宮市内の施設で受けることもできますし、術後の定期的なフォローは当院で行えますから、やはり問題は抗癌剤治療の要・不要ということになります。遠方の治療施設を選ぶときは留意していただきたいと思います。
3 タイプ別の治療方針
方針を決める上で重要になってくるのが、乳癌の性格です。病期(ステージ)は、大きさとリンパ節転移の程度で決まりますが、これには性格が加味されていません。乳癌の性格による分類をサブタイプといい、おおまかに次の5つに分かれます。
①ルミナルA
②ルミナルB
③HER2ルミナル
④HER2型
⑤トリプルネガティブ
ルミナルというのは、女性ホルモンに反応して増える比較的大人しいタイプです。HER2というのは、細胞膜にHER2タンパクが過剰に発現するタイプで悪性度の高いタイプです。トリプルネガティブとは、ルミナルでもHER2でもないタイプです。
これらは採取した組織を特殊な染料で染めて判別します。エストロジェン受容体(ER)もしくはプロゲステロン受容体(PgR)が染まるのがルミナル型、HER2タンパクが強く染まるのがHER2型です。

悪性度はおおまかに、①→⑤の順に高くなります。ホルモン剤はおとなしいものほどよく効き、抗癌剤は悪性度が高いほどよく効く傾向があります。
ルミナルA・ルミナルB
女性ホルモンに反応して増える乳癌で、乳癌全体の6〜7割を占めます。比較的大人しいルミナルAとやや悪いルミナルBに分かれますが、厳密に両者を区別することはできません。
HER2型やトリプルネガティブに比較すると大人しいタイプで、治療はホルモン剤が中心になります。反面、抗癌剤はそれほど効果的ではなく、早期の場合はまず使いません。
そのため通常は手術を先行し、抗癌剤の要否は術後に検討して慎重に決定します。ただし局所進行したケースなどでは術前化学療法を選択することもあります。
術後に抗癌剤を使うべきかどうか、判断に迷うときはオンコタイプDX®という遺伝子検査を行うこともできます。手術で摘出した標本の一部を検査に出すと、抗癌剤の上乗せ効果が予測できます。ただし3割負担の方で13万円ほどかかります。
治療の流れは、多くの場合、手術→ホルモン剤となります。ホルモン剤は女性ホルモンの働きを抑える薬剤で1日1錠の内服が中心です。閉経前の女性では月経を止める注射と内服を併用することがあります。ホルモン剤には抗癌剤のような強い毒性はありませんが、更年期症状や関節痛、婦人科症状が約半数の人に見られます。残りの半数の人にはほとんど副作用はみられません。内服は5年から、できれば10年続けます。なお閉経後の方では、手術前の待機期間にホルモン剤を投与して反応を見るというオプションもあります。
リスクの高い患者さんの場合、術後のホルモン剤治療に以下のような薬を上乗せします。
ホルモン剤10年と下記のいずれか併用
・経口抗癌剤TS-1® 1年
・分子標的治療薬ベージニオ® 2年
いずれも脱毛はありませんが、TS-1®は手足症候群(手足の発赤とあれ)や食指不振、手足・顔の色素沈着、下痢、白血球減少などがみられ、ベージニオ®は下痢、皮疹、手足症候群、白血球減少、間質性肺炎などの副作用がみられます。ベージニオ®は高額治療になりますので、高額医療控除を使って負担を軽減します。
点滴で行う強めの抗癌剤は使用頻度が減っていますが、病理検査やオンコタイプDx検査でリスクが高いと考えられる症例では使用します。脱毛、嘔気、倦怠感、白血球減少などの副作用があります。抗癌剤治療中はホルモン剤は休止します。
家族性乳癌・卵巣癌症候群(HBOC)で再発リスクの高い方は、ホルモン剤10年に分子標的治療薬リムパーザ® 1年を上乗せする選択肢もあります。
HER2ルミナル・HER2型
癌細胞の表面にHER2タンパクという分子が過剰に存在する悪性度が高い乳癌です。転移しやすい乳癌でもあり、手術の前に全身の薬物療法を行うことが多いです。
このタイプの乳癌は、ハーセプチン®という分標的治療薬が癌細胞表面のHER2タンパクと結合して優れた効果を発揮するのが特徴で、ハーセプチン®+抗癌剤、を手術の前に投与すると、約半数の方で乳房の腫瘍が消えてしまいます。最近はパージェタ®と言う分子標的薬も登場し併用するようになりました。
乳房の腫瘍が消えるということは、全身にもよく効いているということになり、高い根治性が期待できます。手術前に抗癌剤を行うメリットはその効果が見えることなのです。
なお、腫瘍が消えた場合でも手術は必要です。癌細胞が残っていないか、顕微鏡レベルで調べるためです。生き残った癌細胞がいるかどうかで、手術のあとに使うお薬が違ってきます。
治療の流れですが、KATHERINE試験という臨床試験のスケジュールに沿って行うことが多いです。
・術前化学療法の前半3ヶ月はアントラサイクリン系のレジメ(AC、FEC、EC)を3週間毎に4回点滴します。(治療強度を高めるために2週毎に4回投与するオプションもあります)
・次の3ヶ月はタキサン系の抗癌剤を投与し、そこに重ねて3週ごとにハーセプチン®+パージェタ®を投与します。
・術前化学療法が終わったら手術をして病理検査を待ちます。癌細胞が完全に消失していれば病理学的完全奏功(pCR)となります。
・pCRになった人は抗癌剤投与を行わず、ハーセプチン®+パージェタ®のみを3週ごとに14回投与します。
・pCRにならなかった人には、カドサイラ®という抗癌剤を3週ごとに14回投与します。比較的副作用の少ない薬剤なので、カドサイラ®を投与しながら放射線治療を行います。HER2ルミナル型(ER陽性)の場合はホルモン剤も併用します。
なお、薬剤選択や投与順については、それぞれの施設で多少違っています。また腫瘍径の小さな早期乳癌に対して一律同じ治療をする必要があるかという問題もあります。術前化学療法は必要か、アントラサイクリン系抗癌剤は必要か、パージェタ®は必要か、個々の症例において検討されます。
2023年にはハーセプチンとパージェタを一つにまとめて皮下注射製剤にしたフェスゴ注®も登場し、投与が簡便になりました。
治療は今も進歩しています。2025年に発表された臨床試験の結果によると、pCRにならなかった人にはカドサイラ®を使うより、エンハーツ®の方が優れていたということで、近いうちに治療方法が変わると思われます。米国ではすでに承認され、日本は承認待ちの状態です。
またエンハーツ®は近い将来、術前化学療法にも取り入れられる可能性があり、治療方法が根本的に変わる可能性もあります。経口の抗HER2薬も開発が進んでいます。
トリプルネガティブ乳癌
ルミナル型でもHER2型でもないこのタイプは悪性度の高いタイプです。このタイプも転移のリスクが高く、腫瘍径が1センチを超える場合は手術の前に抗癌剤治療を行います。
抗癌剤はよく効きますが、個人差があります。以前は抗癌剤だけで治療していましたが、2022年からキイトルーダ®という分子標的治療薬が術前化学療法と併用できるようになりました。ただし対象とならない人は従来通り抗癌剤のみの治療となります。キイトルーダ®は免疫系の薬だけに自己免疫疾患を誘発するという副作用があります。
術後はキイトルーダ単独を約半年間継続する治療や、ゼローダ®という経口抗癌剤を1年間内服する治療があります。遺伝性乳癌卵巣癌症候群に該当する方(BRCA遺伝子変異陽性の方)ではリムパーザ®という分子標的治療薬という選択肢もあります。ホルモン剤は使用しません。
なお、腫瘍径が1センチ以下でリンパ節転移がなさそうな場合は、手術を先行します。術前化学療法をすると正確な病期がわからなくなってしまうというデメリットがあるからです。この場合、術後に化学療法を行うかどうかについて定まった方針はありません。
4 乳癌の手術
・乳腺部分切除術(温存手術)+放射線
・乳房切除術
(再建を念頭においた乳房の手術)
・乳頭乳輪温存乳房全切除術
・皮膚温存乳房全切除術腋窩リンパ節の手術
腋窩の手術
・センチネルリンパ節生検
・腋窩リンパ節郭清
乳癌の手術は乳房の手術と腋窩リンパ節の手術に分かれます。まずは乳房の手術から説明します。
乳腺部分切除術(温存手術)

乳癌は周囲の一見正常に見える乳腺にも潜んでおり、この広がりの小さい人が温存手術の対象です。早期乳癌のおよそ7〜8割の方は温存手術が可能です。手術のあとは放射線治療が必要になります(後述)。乳房切除の代わりに放射線を当てると考えてよいでしょう。
腫瘍を中心として周囲の正常組織を含めて円柱状に切除します。手術中に円柱の周囲を何箇所か検査に出しながら、過不足のない切除を目指します。切除後、欠損部分を縫い合わせるだけだと乳房の変形が大きくなってしまうので、周囲の乳腺をずらして充填し、形を整えます。
通常の温存手術は乳腺外科医がその場で形成します。多少の変形は残るのですが、いかに自然に見せるかは外科医の腕次第です。この操作は多くの場合、形成外科医を必要としません。
手術後2〜3週間すると病理検査の結果が出ます。手術後、1〜2ヶ月して創部が落ち着いた頃に乳房への放射線が始まります。(抗癌剤治療が必要な場合は抗癌剤治療を先行します)
乳房切除術

乳房全体を切除する手術です。昔のように大胸筋を切除することはありませんので、肋骨が浮き出るようなことはありません。男性の胸のような感じになります。
放射線治療は不要ですが、腋窩リンパ節に転移のあった方などは、放射線治療をすることになります。希望に応じて乳房再建手術を行うこともできます。
乳房切除をお勧めするケース
腫瘍径が3〜4cm以上ある人や、皮膚に浸潤している人は温存手術をお勧めできません。温存手術で取り切れたとしても、乳房再発のリスクが高くなりますし、術後の変形が大きくなって温存のメリットが損なわれるからです。
また腫瘍は小さくても乳腺内の広がりが大きい場合も温存は難しくなります。中には病期0なのに乳腺内の広がりが大きくて乳房切除になる人もいます。
ただし、乳腺内での広がりにつきましては、ほとんどが乳管内癌(非浸潤癌)であって、広がりが大きくても命の危険が増える訳ではありません。広がりが大きいと温存手術ができなくなるということであって、生命リスクとは関係ない因子です。

乳頭乳輪温存乳房全切除術

nipple sparing mastectomy(NSM)といい、乳房再建を前提とした術式です。乳輪・乳頭・皮膚を残して乳房の中を全て切除します。再建後には自分の乳頭が残るので、より自然な感じになりますが、乳頭の高さは対側より1〜2センチ高くなってしまいます。
また、残す皮膚の厚みを薄くすると乳頭壊死のリスクが増え、厚くすると癌細胞が残るリスクあり、その兼ね合いが難しい術式で、全摘ではありますが結果的に放射線治療が必要になることもあります。
皮膚温存乳房全切除術

skin sparing mastectomy(SSM)といい、これも再建を前提とした術式です。乳輪乳頭は切除し皮膚だけを残しておく術式です。乳輪乳頭が残せない症例でも、皮膚が多く残っていると再建の時に有利です。乳頭壊死のリスクがないため手術中の自由度も増えます。再建後に乳輪・乳頭の形成は必要になります。乳輪乳頭の再建を行わず、必要なときだけシリコン製の乳輪乳頭を貼り付けている人もいます。
5 腋窩リンパ節郭清とセンチネルリンパ節生検
腋窩には20個ほどのリンパ節があります。早期乳癌で腋窩リンパ節に転移している人は1〜2割程度です。昔は、腋窩リンパ節に転移があるかどうか、見分ける方法がなく、乳癌と診断されたら、腋窩リンパ節は全部取るのが普通でした。これが腋窩リンパ節郭清です。

しかし腋窩リンパ節を郭清すると、入院期間が長くなる上、術後の痛みや、リンパ浮腫や蜂窩織炎などの合併症を生じるリスクがありました。
現在はセンチネルリンパ節生検という方法で、腋窩リンパ節転移を見極めることが可能となり、郭清は必要な人だけ行うようになりました。これにより入院期間が短くなり、退院後の生活が楽になり、リンパ浮腫などの合併症も起きにくくなりました。
センチネルリンパ節生検は乳癌手術中に全身麻酔下で行います。乳輪下に緑の色素を注射すると、色素が皮下のリンパ管を流れていき、いくつかの腋窩リンパ節が緑に染まります。5分後、腋窩に小切開を加え、緑に染まったリンパ節を含めて数個を摘出し、病理検査に提出します。緑に染まるリンパ節がセンチネルリンパ節で、ここに癌細胞がなければ、腋窩リンパ節には転移がないと判断します。放射性同位元素(アイソトープ)を用いてセンチネルリンパ節を同定する方法もあります。
摘出に要する時間は20〜30分ほどで、転移の有無は手術中に判明します。リンパ節の結果を待ちながら、乳房の手術を進めます。センチネルリンパ節に転移があり、郭清が必要と判断されれば、乳房の手術に続いて郭清を行います。転移があっても微小な転移だけであれば郭清を省略することもあります。

昔は、リンパ節をたくさん取れば根治度が上がるという考えもありましたが、現在では考え方も変わり、腋窩リンパ節転移の臨床的な意義は、進行度やリスクの評価、薬物療法の正しい選択に必要な因子、と捉えられており、その用途はセンチネルリンパ節生検で事足りる、ということです。
6 放射線治療
ここでは乳癌術後の放射線治療について説明します。放射線治療は局所的な治療であり、基本的には効果も副作用も、線が通ったところにしか出ません。ですから乳癌の術後照射で頭髪が抜けたり、消化管に障害が出たりすることはありません。また線が通り抜けるだけで、線を出す粒子(放射性物質)で汚染される訳ではありません。電子レンジで温めたものが汚染されていないのと同じです。原子爆弾や原発事故のような放射能汚染と混同しないようにしましょう。
術後照射
手術した部位に放射線を照射すると、局所再発リスクを1/3程度に減らすことが可能です。また温存手術のあとに放射線治療を加えることで、乳房切除をしたのと同等の効果が得られます。
ただし、放射線治療はあくまで局所治療であり、局所再発を減らすのが目的であって、抗癌剤やホルモン剤のような全身治療ではありません。しかし、不思議なことに術後の放射線治療をすると遠隔転移リスクも少し下がることが大規模比較試験で分かっています。ここはちょっと理屈に合わない話ですが、比較試験に組み入れられた人の中で、局所再発した群のマネジメントはどうだったのか、と考えてしまいます。当然、フォローアップの質にも左右されますから。
術後放射線治療の実際
放射線治療は普通のクリニックではできません。手術を受けた病院で行うのが普通ですが、毎日通いますので勤務先に近い別の病院で受けられる方もいます。
乳癌の術後、創部が落ち着いたら放射線科を紹介され、放射線治療が始まります。初回は照射する角度や範囲、総線量、回数を決め、その次から照射が始まります、照射は土日祝日を除く平日、毎日行います。1回の照射は1〜2分で、病院滞在時間は20~30分です。
回数と線量
従来の標準的な照射法は、全乳房照射(2Gy×25回=50Gy)に追加が必要な人はブースト照射といって、(2Gy×5回=10Gy)を追加していました。最近は寡分割照射と言って、一回の線量を少し増やして、短期間で終わる照射が主流となっています。施設によって多少違いますが、1回2.6〜2.7Gyを15~16回、ブースト照射が必要な人は3~5回を加えます。注:Gy(グレイ)は吸収線量を表す単位です。
放射線の副作用
1 皮膚障害・色素沈着 日焼けを強くしたような感じで、個人差があります。色素沈着は3ヶ月ほどで抜けてきますが、完全に消えるのは1年ほどかかります。
2 汗腺・皮脂腺の消失 必発ですが、あまり支障はないようです。照射したエリアに限定して汗をかかなくなり、そこだけ熱感があって、乾燥します。ローションなどで対応します。
3 放射線宿酔 照射した日は気分がすぐれないという人が数%居ます。2週間ほどで軽快しますが、照射中続く方もおられます。原因不明です。
4 放射線肺炎・BOOP肺炎 頻度は1〜2%ですが、放射線治療のあと数ヶ月してから乾いた咳が出始め、放射線の当たった部位に肺炎像を生じることがあります。感染性の肺炎と違って重篤化は稀ですが、治るのに数ヶ月以上を要します。よく似た肺炎でBOOP肺炎と言う肺炎もあります。(Bronchiolitis obliterans organizing pneumonia 閉塞性細気管支炎気質化肺炎)これは放射線の当たっていない場所や、反対側の肺にも次々に出現する傾向があり、全身的な免疫反応が関わっていると思われます。ステロイドを使うことが多いです。
5 心臓への影響 左乳房への照射では心臓の前壁を少しかすめるので、後年影響が出る可能性はありますが、ほとんど問題になりません。
6 肋骨への影響 照射野に入っている肋骨に脆弱化と骨折のリスクがありますが、頻度は少ないようです。
注:悪性腫瘍(二次がん)発症リスク
放射線治療による二次がん発症リスクは懸念されてきましたが、2025年の6月に韓国で大規模な比較試験の結果が発表され、照射群と非照射群(それぞれ2134人)、放射線治療後の中央値が12~13年、の比較で有意差はなかったとのことです。二次発癌のリスクはほぼないと言えそうです。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40506029/
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7 乳房切除後の再建について
乳房切除後に再建を希望される方には形成外科のある病院を紹介します。
形成方法にはいろいろなパターンがありますが、おおまかに言うと、乳癌の手術と同時に再建に着手するか(一次再建)、術後ある程度の時間をおいて、落ち着いてから再建するか(二次再建)、再建手術を一回で終わらせるか(一期再建)、2回に分けて行うか(二期再建)、シリコンバッグを使うか、自家組織を使うか、に分かれます。
一次一期再建(同時再建とも言います)は、皮膚、乳輪乳頭を残して内部の乳腺を全摘し、同時にシリコンバッグを留置する手術です。手術方法が簡便であることや、乳房の喪失感が緩和されるという利点はありますが、整容性の点では、自家組織を用いた二次再建に及びません。また、乳癌の切除後にも数%の頻度で合併症が起こり得ますし、そういう不安定な時期に再建を行うことになりますので、想定通りの仕上がりにならないことも多々あります。手術後の病理検査を待たずに着手することも不安材料の一つです。
二次再建は、術後半年〜数年を経て着手します。多くの場合、手術は数回に分けて行います。初回手術は皮下にティッシュ・エクスパンダーを留置して、数週間おきに生理食塩水を注入しながら皮膚を伸ばしていきます。皮膚が十分に伸びたら、シリコンバッグか自家組織に入れ替える手術を行い、最後に乳輪乳頭の形成を行います。
ここでもシリコンバッグか自家組織かという問題があります。これにつきましては、皮膚を伸ばす間、時間は十分ありますので、担当の形成外科医と相談して決めてください。
簡便なのはシリコンバッグですが、整容性で優れるのは自家組織です。自家組織は手術の難易度が高く、手術時間も長く、術後もしばらくは辛いですが乗り越えたあとの満足度は高いと思います。
自家組織にも種類があります。
有茎皮弁=筋肉で血流確保
①腹直筋脂肪皮弁(TRAM皮弁)
②広背筋脂肪皮弁(LD皮弁)
遊離皮弁=血管吻合で血流確保
③遊離TRAM皮弁
=血管+腹直筋+脂肪+皮膚を移植
④深下腹壁動脈穿通枝皮弁(DIEP皮弁)
=血管+脂肪+皮膚だけを移植
腹直筋は使わずに温存
①②は血管吻合が要らないため一般外科医でも行えます。西宮市立中央病院病院勤務時代は私がやっていました。③④は血管吻合が必要で熟練の形成外科医を必要とします。ご要望のある方には紹介させて頂きます。
ご注意!
シリコンバッグを用いた再建手術は、豊胸手術とは全く別の手術です。豊胸手術のイメージでとらえないでください。豊胸手術は左右の乳房の裏に入れるのでシリコンバッグが目立たず、左右差もできませんが、再建手術の場合は、大胸筋の下に入れるといっても不自然さは残り、左右のバランスも同じにはなりません。
8 局所再発乳癌の治療(ⅢB,ⅢC期)
腫瘍が大きく、皮膚や胸壁に浸潤したり、露出したりして、そのままでは手術が困難なものや、リンパ節転移が腋窩だけでなく鎖骨下、鎖骨上、内胸リンパ節(=傍胸骨リンパ節)に及んでいてそのままでは取りきれないと思われるケースで、まだ遠隔転移を来していないケースを局所進行乳癌といいます。
治療は、術前療法(抗癌剤、ホルモン剤、分子標的治療薬)から始め、ある程度病変が縮小したところで、手術をおこないます。
治療後の局所再発や遠隔転移のリスクも高く、術後も分子標的薬を含め、いくつかの薬剤を選択して投与したり、胸壁やリンパ節転移があった場所には放射線治療を行うことが多いです。
一通りの治療が終わったら、通常の乳癌の術後としてフォローし、遠隔転移を生じることなく10年が経過したら治癒と考えますが、そのあともフォローは続けます。
9 病期Ⅳの治療
遠隔転移があると病期はⅣとなります。病期Ⅳの治療は手術ではなく薬物療法が中心になります。すでに癌細胞は全身に回っていると考えるからです。
薬で癌が消えてくれればいいのですが、なかなかそうはいかず、多くの場合、薬を適宜変更しながら、進行を抑えていくという経過になっていきます。
しかし治療薬の進歩によって、コントロールできる期間は確実に伸びておりますし、中には癌が消える人も、消えた状態で数年以上を経過している人もおられます。根治したという保証がないので、一時的な消失を意味する『寛解』という言葉を使うのですが、こうした人の中から根治する人がでてくると思っています。
病期Ⅳでも最初の数年は比較的軽いお薬で、穏やかにコントロールしながら普通の社会生活を送れることが多いです。人知れず副作用は抱えながらも、仕事を続け、クリニックに通院できるレベルです。病期Ⅳだから末期ということではありません。
病勢が進行してくると、より強い抗癌剤を使用したり、放射線を当てたりする必要が生じ、どうしても病院との連携が必要になってきます。そうなると社会生活に支障をきたし、QOLと治療のバランスが悪くなってきます。病院にしかできない治療は病院で、クリニックでできる治療はクリニックで、連携しながらサポートして参ります。