乳腺疾患
乳腺炎
乳腺炎とは乳房内で雑菌が繁殖して起こる細菌感染です。乳房が腫れて痛み、高い熱が出ます。血液検査では白血球が増加してCRPなど炎症反応が高くなります。授乳期に生じるものと、非授乳期に生じるものに大別されます。
急性乳腺炎(授乳期に母乳をベースとして生じる)
- 急性うっ滞性乳腺炎
- 急性化膿性乳腺炎
その他の乳腺炎(非授乳期の乳管内で細菌が増殖)
- 乳輪下膿瘍
- 肉芽腫性乳腺炎
急性乳腺炎の経過と治療
急性うっ滞性乳腺炎は、母乳がうまく排出できずにうっ滞することで起こる乳腺炎です。乳房が張って痛みはありますが、まだ感染には至っていない段階で、熱はあっても軽度です。授乳は継続したままマッサージや搾乳を行い、うっ滞が改善すればこのまま治っていきます。
改善しない場合は2〜3日以内に急性化膿性乳腺炎へ移行します。細菌感染の兆候が明らかとなり、乳房が赤く腫れて痛み、高い熱が出ます。この段階では抗生物質を処方します。
抗生物質が効かない場合はさらに悪化して膿瘍という膿の溜まりを形成し切開排膿が必要になります。切開排膿すると感染は収まり治癒に向かいます。
経過中、発熱や痛みに対しては解熱鎮痛剤を使い、急性化膿性乳腺炎に移行すれば抗生物質を加えます。授乳中、安全に使用できる薬剤については国立成育医療研究センター内に設置された妊娠と薬情報センターが情報提供してくれています。授乳中の薬剤選択についての情報はこちらのページをご覧ください。これを見ると普段成人に使用している解熱鎮痛剤剤や抗生物質の多くは、授乳中でも安全に使用できることがわかります。
とは言え、内服しながらの授乳には抵抗もあるでしょうし、治療の辛さから断乳を選択したくなる気持ちもわかります。上記のサイトでは、授乳を継続するか、一時中断するか、断乳するかについてもアドバイスがあり、個々の事例で当事者が選択すればよいことがわかります。
ですから、治療としては一般外科でも扱える疾患となります。ただし母乳マッサージについては助産師さんが専門ですので、助産師センターか母乳外来のある婦人科と連携します。
なお、断乳を選択しても乳房は張るので搾乳は不可欠です、しかし搾乳を続けると母乳なかなか止まってくれません。そういうときにはパーロデル®など母乳を止める薬を使うこともあります。ただしこれは乳腺炎の治療として使うのではく、あくまで断乳のお手伝いとして使うのです。しかも多くの人は自然に断乳まで辿り着けるので、実際に薬を使うことは稀です。
食事の内容につきましては、バランスの良い食事で、必要なカロリーを摂取することが重要です。うっ滞を改善するために脂肪分を制限するなどは誤りです。十分な休息を取り、脱水にならないように注意してください。詳細についてはこちらのガイドラインも参照ください。搾乳や母乳マッサージについても触れています。
(母乳マッサージはp79~80)
その他の乳腺炎
授乳とは無関係な時期に生じる乳腺炎もあります。乳輪下膿瘍と肉芽腫性乳腺炎について説明します。
①乳輪下膿瘍
乳輪下の太い乳管内で細菌が繁殖し化膿する病気です。最初は乳輪下に痛みが生じ、2〜3日のうちに腫れて赤くなり、高い熱が出ます。抗生物質を投与しても経過が速いため抑えが効かず、数日以内に膿瘍(膿の溜まり)を形成し、切開排膿になることが多いです。切開排膿しても治りきっていなければすぐ再燃します。何回か処置を繰り返すと一旦は治るのですが、数年を置いて再発することが多く、経過が10年以上に及ぶこともあります。
長期に亘って反復する要因は、乳管内に生き残った細菌が何年も潜んでいるからですが、患者には喫煙者が圧倒的に多く、喫煙がなんらかの形で関与していると考えらえています。ほかには陥没乳頭や糖尿病もなりやすい要因とされています。
再発を繰り返す症例では手術も検討します。切除するのは膿瘍部分だけでなく、それに続く乳管も含めた区域ごと切除するようにします。陥没乳頭がある場合は、同時に乳頭を形成する手術も行います。
②肉芽腫性乳腺炎
非授乳期に生じる乳腺炎ですが、乳輪下膿瘍とは違い乳腺のいろいろな場所に生じます。
最初は痛みを伴うしこりができ、やがてそこの皮膚が赤くなり、皮膚に穴が開いて膿が出ます(自潰といい、膿の出る孔を瘻孔といいます)熱が出ることもあります。この疾患はここからが独特です。一つの膿瘍は数週間の経過で治っていくのですが、ピークを過ぎる頃、別の場所に新たな膿瘍が出現し、以後、連鎖的に複数の膿瘍が出来たり消えたりしながら、数ヶ月から1年以上かけて治癒に向かいます。時に反対の乳房にも膿瘍が出現したり、下肢に結節性紅斑という痛みをともなうしこりができたりすることから、なんらかの自己免疫異常が関与していると考えられます。
比較的珍しい疾患ですが、前の病院では数年に1度くらいの頻度で経験していました。断乳後2~3年での発症が多いと言われますが、それほど限定的ではなくもう少し幅広い印象です。原因はわかっていません。コリネバクテリウムという細菌感染に加えて、自己免疫異常の関わりや、プロラクチンというホルモンの異常が関係していると考えられていますが、定説はありません。
Corynebacterium kroppenstedtiiという細菌は脂肪好性という変わった性格をもち、培養にも工夫を要するのですが、それが知られてないため、一般病院の細菌検査室では検出されにくいのです。
確立された治療はありません。抗生剤で治療すると長期に亘り漫然と投与することになりますが、治療期間の短縮になっているかは疑問です。ステロイドの投与も試されていますが有用性についての結論は得られておらず、有害無益の可能性もあります。無治療でも時間をかけて自然治癒しますので、当科では、基本は無治療で、定期的に見守るだけにしています。通常、手術は行いません。
乳腺症
女性ホルモンは卵巣で作られ、乳腺や子宮に作用します。女性ホルモンは月経周期に合わせて変化するため、乳腺や子宮にも周期的な変化をもたらします。そして毎月毎月この変化にさらされるうち、乳腺にはいろいろな症状が出てくるようになります。女性ホルモンによるこの変化が乳腺症です。
主な症状は、乳房の痛みやはり、しこり、嚢胞、乳頭分泌、マンモグラフィで映る石灰化などです。痛みや張りは、排卵後の高温期に強くなり、月経が始まると軽快するのが特徴です。痛みや張りはあまり乳癌とは関係ありませんが、しこりや乳頭分泌、マンモグラフィの石灰化は乳癌にもみられる症状であり、検査で調べる対象になります。
詳細についてはそれぞれの項目をご参照ください。
乳腺症は病気?
乳腺症は閉経前の成熟女性に普通に見られる生理的な変化であって病気ではありません。良性疾患として扱われることが多いですが、そもそも疾患として扱うべきか難しい概念です。例えば、生理痛は病気ではありませんが、月経困難症といえば病気の扱いになります。乳腺症もそれと似ています。乳腺症と診断されると、なんだか病気になったような気分になりますが、病気とは考えないようにしてください。
乳腺症の痛みとその治療
乳腺症の痛みや張りは、生理なものであり多くは治療不用です。痛みが強いときだけ、一般的な鎮痛剤を使えばよいのです。しかし中には常時強い痛みに悩んでおられる方も居て、そういう方は治療の対象になります。
喫煙は増悪因子であり禁煙は必要です。ほかにカフェインや脂肪過多の食事もよくないと言われています。
自律神経失調症やそこからくる生理不順などをお持ちの方は、それぞれの科にも治療をお願いします。生活習慣の見直しやストレス管理、心理療法などが治療の一環として行われ、薬物療法と併用されます。漢方薬が試されることもあります。
当科でも加味逍遙散やいくつかの漢方薬を試すことがあり効果のある人もいますが、漢方薬単独での効果はそれほど高くはありません。
痛みを確実に止めたい場合はボンゾール®錠を使用します。月経を止めて子宮内膜症を改善する婦人科のお薬ですが乳腺症にも適応があります。乳腺症の場合は100〜200mgの低用量を4~6週間以内の限定で使います。副作用は、血栓や肝機能障害で、糖尿病の人では血糖制御が悪くなることもありますが、乳腺症で使う場合は低用量で期間も短いのでまず問題になりません。
病理学的な乳腺症の分類
女性ホルモンは乳腺組織にもいろいろな変化をもたらします。それらの組織変化のほとんどは良性なのですが、その中にはADHやALHといった将来、癌化する可能性があるものも含まれています。
だからといって乳腺症が前癌病変という訳ではないのですが、この点につきましては、病理学でいう『乳腺症』と臨床的にいう古典的な『乳腺症』は指すものが違っており、それが混乱の要因になっているとも言えます。
乳腺症で生じる組織学的変化
乳腺症で生じる組織変化についてざっと書いておきます。
①乳管内増殖性病変
- 乳管内や小葉内で細胞が過剰に増殖
- UDH、ADH、LH、ALH、CCL、FEA
- Aは異型を表し、癌化リスクがある
②腺症
- 腺組織自体が増殖し腫瘤様病変を形成するもの
- 開花期腺症、閉塞性腺症、硬化性腺症
③嚢胞変性
④アポクリン化生
⑤放射状硬化性病変
- RS(radial scar)小さいもの
- CSL (complex sclerosing lesion)
- 比較的大きい 癌化リスクあり
- 両側の乳輪下に生じやすい
分類の詳細についてはいずれブログに記載します。組織検査で偶然見つかったADHの臨床的な取り扱いなど興味のある方はどうぞ。
糖尿病性乳腺症
糖尿病の方は乳腺に繊維質の比較的硬いしこりを作りやすいです。触診や画像検査で乳癌と紛らわしいのですが針生検で診断できます。癌でないことを確認したらあとは経過観察します。癌化のリスクはありません。疾患名は糖尿病性乳腺症(diabetic mastopathy)になっていますが、病理学的には乳腺線維症(fibrous disease)の中に分類され、厳密には乳腺症のカテゴリーに入っていません。
嚢胞
嚢胞は乳腺の中にできる半透明の袋で中には液体が貯留しています。数ミリから1センチほどのものが多いのですが、数センチに及ぶものもあります。無害な病変で、数個程度なら成熟女性の乳腺には高頻度でみられます、体質的に両側に多数の嚢胞を持つ女性もいます。超音波検査で内部エコーの無い境界明瞭平滑な腫瘤として描出され診断は容易です。
発生には女性ホルモンが関与しており、乳腺症の症状の一つとされます。小葉の繊維化で終末乳管に通過障害を生じ、分泌液が貯留して嚢胞が生成すると言われています。ホルモンの状態により大きさも変化します。普段は触れない嚢胞でもホルモンの加減で内容液が緊満すると硬く触れて痛みを生じることもあります。注射器で穿刺して内容液を吸引すると楽になります。多くは閉経後に退縮します。
嚢胞のいろいろ
- 単純性嚢胞:内容物は漿液性(さらさら)
- 多房性嚢胞:単純性だが複数の腔からなる
- 濃縮嚢胞:内容物が泥状、半固形、固形。無害だが、腫瘤との鑑別が必要
良性悪性の鑑別を有する嚢胞
①集簇嚢胞
微小な嚢胞が一箇所に集簇しているもの。多房性嚢胞とは区別します。異常でないことが多いのですが、非浸潤乳癌のこともあるので細胞診を行います。疑わしい初見が得られた場合は組織検査へと進みます。
②嚢胞内腫瘍
嚢胞内乳頭種のことも嚢胞内癌のこともあり、まずは細胞診を行い、疑わしい場合は切開生検をおこないます。
③血性嚢胞
たまに嚢胞の穿刺吸引をして嚢胞内容が血性のことがあります。内容が血性でも細胞診が陰性で嚢胞内腫瘍がなければ、直ちに悪性を考えるわけではありませんが、一応念頭に置いて外来でフォローします。穿刺したあと消えてしまうことも多いのですが、消えてもしばらくは経過観察を続けます。
粘液瘤様腫瘤(MLT:mucocele like tumor)
粘液を貯留した嚢胞様の病変です。稀な疾患ですが、良悪性の境界病変であり注意が必要です。
嚢胞様の病変で、細胞診を行うと粘液を吸引した、というケースが一番多いと思います。細胞診で粘液癌であれば治療へ進みますが、細胞に悪性初見がない場合はMLTということになります。MLTは良性ですが、20~30%の割合で近傍に初期の乳癌を合併することが多く、通常は周囲組織を含めた生検に進みます。
ただし、生検で乳癌が見つかっても低悪性度の非浸潤癌であることが多く、この段階では生命リスクはなさそうです。一方で生検を行わず経過観察した例で消失した例もあるようで、どの段階で治療に進むべきか悩ましい病変です。
形態的には嚢胞ですが、病理学的には嚢胞や拡張乳管に溜まった粘液が破れて間質に流出し、粘液湖を作ったものということです。
高率に石灰化を伴うのでマンモグラフィ検診で見つかるケースもあります。石灰化は点状の石灰化の集簇だったり、特徴的なやや粗大な石灰化だったりします(これは粘液癌でもみられます)。超音波でもも石灰化を疑う陰影が見えることがあります。
乳管内乳頭腫(intoraductal papilloma)
乳管内乳頭腫の典型的なものは、乳頭近くの太い乳管の中にできる、茎のあるポリープ状の病変です(中枢型乳頭腫)。大きさは通常数ミリ程度。乳管壁の内面にブロッコリーの房が生えてるイメージです。ときに2〜3センチの大きさになることもあります。小さなものは触知せず、MMGにも映りにくく、たまたまエコー検査で見つかるか、乳頭分泌で見つかることが多いです。
2~3センチほどの大きさのものは、周囲の乳管が嚢胞状に膨らんでその中にあるため、嚢胞内乳頭種(intracystic papilloma)とも言います。このくらいになると触知したり、マンモグラフィに写るようにもなります。
乳頭腫は末梢の細い乳管にも発生します(末梢型乳頭腫)。末梢型は顕微鏡でないと見えない大きさですが、末梢乳管に鈴なりに生じると超音波検査でなんとなく分かります。
乳頭腫は良性病変ですが、近傍に乳癌が発生することがあり注意を要します。癌化なのか乳頭腫の発生する場所に乳癌が発生しやすいのか、それは解明されていませんが、どちらかというと後者寄りの考えです。中枢型より末梢型の方がリスクが高いです。
ちなみに、乳管内乳頭腫症(duct papillomatosis)というのは、紛らわしい名前ですが全く違うカテゴリーの病変です。これは乳管内増殖性病変といって乳管の中で乳管上皮が過剰に増殖する病変で、その上皮がもこもこ(乳頭状)に増殖しているタイプを指すのであって、乳腺症でみられる組織変化の中のUDHに含まれます。末梢型の乳頭種とは違い結合織の茎がありません。
乳頭腫の診断と治療
乳頭腫自体は良性で、基本は経過観察ですが、近傍に癌が発生しやすいため、切除を検討することもあります。
分泌物細胞診、超音波検査、穿刺吸引細胞診、分泌物の性状、分泌物中の腫瘍マーカー(CEA)などの検査で乳頭腫疑い、気になる所見がある
乳頭腫の構成細胞に異型あり※1
乳管造影※2 切開生検※3
※1 乳頭腫は良性ですが、その細胞に異型のあるなしがあるのです。
※2 乳管造影は乳頭から造影剤を入れてマンモグラフィを撮る検査です。必須ではありませんが分泌物のある乳管が本当にその病変と繋がっているのか、確認するつもりでやっています。
※3 切開生検は、小切開で乳管に沿ってある程度の範囲を切除します。局所麻酔(日帰り)でもできる手術ですが、全身麻酔の方が楽かもしれません。
切除した組織を丁寧に調べ乳癌が含まれていなければ治療は終わり、あとは経過観察です。乳癌が見つかれば乳癌の治療を行いますが多くは0期です。
線維腺腫
日常的に遭遇する良性腫瘍です。腫瘍とはいえ内部の組織像は正常の乳腺とあまり変わらず、癌化のリスクもありません。基本的には治療の対象にならないので正確な有病率はわかりませんが、数ミリ大の小さいものを含めれば、女性の何割かはもったまま暮らしていると思われます。
発生するのは20~30代です、この時期の線維腺腫は比較的早く増大するため、腫瘤に気づいて来院されるケースがあります。この場合、比較的硬くてよく動く、境界明瞭な腫瘤として触れ、痛みはないことが多いです。マンモグラフィには映らないことが多く、超音波検査が有用です。
若年性の乳癌(特に充実型)や葉状腫瘍(後述)との鑑別が問題になります。まずは針生検で乳癌を否定しますが、葉状腫瘍と線維腺腫は組織像が似ているため針生検では鑑別できません。両者の違いは経過観察でわかります。線維腺腫の増大はいずれ頭打ちになりますが、葉状腫瘍はどんどん大きくなります。葉状腫瘍を疑う場合は診断と治療を兼ねて切除します。
線維腺腫の切除に何センチという基準はありません。3~4センチが目安ですが、小さくても希望があれば切除します。稀にどんどん大きくなる巨大若年性線維腺腫というのもありますが、普通はそうなる前に切除されます。
若年性のものを除けば、線維腺腫のほとんどは数ミリ大で触知しないものが多く、両側に多発する傾向があります。マンモグラフィにも写りにくいため、超音波検査で偶発的にみつかるものが多いです。こういう不顕性の小さな線維腺腫は、エコー上、濃縮嚢胞や乳腺症と区別ができませんが、敢えて区別する理由もないので線維腺腫疑いとして経過観察します。気になるものについては細胞診をしておきます。
なお旧くなった線維腺腫には特徴的な粗大な石灰化を生じることがあり、中高年になって検診のマンモグラフィで初めて指摘されるケースもあります。無害なので放置します。
葉状腫瘍(phyllodes tumor)
葉状腫瘍は線維腺腫の仲間で、形も似ているのですが、発生年齢がやや高いのと、増大する速度が速いのが特徴です。多くは良性ですが境界悪性や悪性もあり、悪性は転移することもあるので治療を要する疾患です。
ただし良性葉状腫瘍と線維腺腫は組織像まで似ており針生検では診断が困難です。葉状腫瘍は大きくなるのが早いので疑ったときは切除して調べます。
葉状腫瘍は内部が不均一で、たとえ良性であっても悪性度の高い部分が混在することがあります。だから良性でも切除が必要です。
葉状腫瘍は局所再発しやすいのも特徴の1つで、切除するときには腫瘍の周囲にある程度のマージンをつけて切除する様にします。
葉状腫瘍の切除標本で断面を観察すると、被膜の外側に接して、非常に小な粒状の葉状腫瘍が散在するのがわかります。被膜ぎりぎりで切除するとこのような病変が残ってしまうのでマージンをつけた切除が推奨されています。ただしマージンを必要以上に大きくしても意味はないと思います。
悪性葉状腫瘍は稀に肺や骨に転移します。転移は血行性です。転移後の経過は肉腫に似て急速に進行し、有効な化学療法も限られるため予後は極めて不良です。リンパ節転移が少ないのも肉腫に似ています。
局所再発を繰り返すことで悪性化するという説もありますが、局所再発と悪性化のメカニズム、転移のメカニズムに因果関係は証明されていません。単に腫瘍内の不均一性の問題かもしれません。またマージンを大きく取る手術で局所再発は防げますが、遠隔転移まで防げるという根拠はありません。
腺腫
腺腫は乳腺に発生する良性腫瘍です。腺管が密に増生し境界明瞭なしこりを作りますが、皮膜はありません。摘出の必要はありませんが、針生検で乳癌と紛らわしい場合もあり、はっきりしないときは切開生検で摘出して調べます。
①管状腺腫
乳腺内部にできる腺腫で線維腺腫と似ています。線維腺腫として経過観察されているケースも多いと思われます。
②乳管腺腫
厚い被膜に覆われているため、乳管内乳頭種と似ます。多くは摘出して調べます。
③乳頭部腺腫
乳頭内部に生じる腺腫です。乳頭先端に露出することが多く、Paget病との鑑別が必要になります。乳頭が変形したり、擦れて出血したりするので手術で腫瘍部分を摘出します。傷跡はほとんどわからなくなります。
乳頭炎・乳輪炎
皮脂分泌の低下や、乳輪乳頭からの微量の分泌液が原因で乳頭・乳輪が痒くなり、無意識に掻くうちにただれて滲出液が加わって、さらに痒くなるという悪循環を生じたもの。初期治療はステロイド剤(リンデロンVG®)が有効です。薬で炎症を抑え、乳頭の保清をこまめに行い、かゆみの悪循環を断つと治っていきます。保湿剤を併用したり、ワセリンで保護するのも有効です。ステロイドは慢性化の原因にもなるので長期間漫然と使用しないようにします。ステロイドを含まない痒み止めとしては、オイラックス軟膏や市販のフェミニーナ軟膏があります。オイラックスH軟膏はステロイドを含むので注意しましょう。治りが悪いときはPaget病など特殊な乳癌の可能性もあり、乳輪皮膚の生検を考慮します。
パジェット病(Paget病)
乳頭先端の表皮に生じる非浸潤癌です。腋窩や外陰部にできるPaget病と区別するため乳房Paget病ともいいます。乳頭先端に円形の境界明瞭なただれ(びらん)ができます。痛みや痒みを伴うこともあり、慢性の湿疹として経過観察されていることもあり注意が必要です。生検で表皮内にPaget細胞(癌細胞)を認めれば診断が確定します。
治療は手術ですが定まった術式はありません。乳房切除も温存もあり、温存の場合でも乳頭乳輪は切除し、術後に放射線治療を加えます。術後の病理検査で浸潤癌と診断される可能性もありますので、センチネルリンパ節生検は手術中にやっておくことが多いです。術後の病理検査で、癌細胞が基底膜を超えず表皮内にとどまっていれば非浸潤癌(0期)の扱いとなり、基底膜を超えて真皮に浸潤すると浸潤癌の扱いになります。今の規約(2025改訂)ではその場合でもPaget病と診断することになっています。
乳房内に生じた乳癌が乳管内を進展し、乳頭先端に到達した場合に、Paget病の外観を呈することがあり、これをパジェット様乳癌(Pagetoid癌)と言います。やや進行した浸潤癌に多いのですが、非浸潤癌の乳頭進展という場合もあります。これは通常の乳癌として扱い、所見にPaget病の存在を記載する、となっています。
副乳(副乳腺)
人間の乳腺は左右一対ですが、たまに腋窩にも乳腺組織を持っている人が居て、腋窩の皮下にこりこりしたしこりとして触れます。リンパ節とは明らかに違います。乳腺同様、軽い痛みがあり、月経周期に合わせて変化する人もいます。授乳期には腫れて痛みます。大きさや形、左右差はさまざまで、症状の程度もさまざまです。
腋窩の副乳は珍しくありませんが、乳房の下部や腹部に持っている人もいます。中には小さい乳頭があり授乳期に母乳の出る人もいますが、それらのケースはかなり稀です。無害なので通常は放置しますが、希望があれば手術で切除することもできます。
なお腋窩に副乳を持たない人でも、乳腺は繊維状の目立たないたない組織となって皮下脂肪の中を腋窩まで続いているものです。そういう乳腺組織から乳癌が発生することもあります。セルフチェックのときは腋窩にも注意しましょう。
女性化乳房
男性にも乳輪下にわずかに乳腺組織が残っており、ホルモンバランスの変化などにより腫れることがあります。男性乳癌とは関係ありませんし癌化もしません。女性の乳腺症と同様無害な病変です。
真性、偽性、混合性の3つのタイプがあります。ほとんどは真性で乳輪下に2~3センチの明瞭なしこりを作り、圧痛を伴います。真性とは言え、皮下に硬いしこりがあるだけで乳房のようには見えません。片側だけのことが多いのですが、よくみると両側というケースも多いです。偽性女性化乳房は内部がほとんど脂肪です。混合性は乳腺組織と脂肪組織の混ざった紡錘型の乳腺が発達するタイプで、外観も女性の乳房と似ます。比較的稀です。
原因は①年齢とホルモンのバランスによるもので、思春期と高齢者に多くみられます。
ついで多いのは②薬剤性で、ある種の降圧薬や胃薬、前立腺や心療内科の薬など多くの薬で生じます。ソイ(大豆)プロテインの常用で生じることもあります。
③他の疾患に続発するものもあり注意が必要です。(精巣腫瘍、副腎腫瘍、下垂体腫瘍、クラインフェルターなどの遺伝子疾患、肝硬変、甲状腺機能亢進症、慢性肺疾患など)
基本的には無害な病変であり放置しても構いません。数ヶ月の経過で自然に消退することもあります。薬剤性の場合でも被疑薬を変更すべきかは悩ましいところです。女性の乳腺症に使うボンゾール®を内服すると数週間で消退するのですが、保険適応外であり現在では使われなくなりました。現在、根本的な治療は手術だけです。脂肪吸引法は自費診療で高額ですが、外科的な切除だと保険が使えて数万円で済みます。保険はどのタイプにも使えます。