検診でマンモグラフィ(MMG)と超音波検査(US)をどう組み合わせるのがいいかという質問が多いので、現時点での見解をまとめておきます。なお、今日のお話は検診のお話であって、経過観察のため半年毎や、1年毎に保険で診ている人の話ではありません。
【診療と検診の違い】
そもそも、MMGとUSはお互いの弱点をカバーし合うような関係にあり、どちらが優れているということではありません。MMGは「石灰化」と「乳腺構造の歪み」を検出するのが得意、USは腫瘤や地図状に広がる病変の検出が得意ということで、精密検査(保険診療)では両方行うのが普通です。
しかし検診については、40歳以上、2年ごとのMMG検診が標準で、自治体が行う検診にUSは導入されていません。US検診には「乳癌死亡率の減少」というエビデンスがないため、導入に踏み切れないのです。MMG検診については欧米を中心に多くのエビデンスがあり世界的な標準となっています。
【問題は40代の精度】
しかしそのMMG検診で、問題になっているのは40代の精度の低さです。これは意外と認知されていません。50代、60代、70代については感度もそこそこ高く(感度は85~90%)単独でもさほど問題にはなりませんが、40代は感度が低く、概ね60~70%台にとどまります。50%とする報告もあります。
感度50%ということは発見される乳癌の半分がMMGに映らず、すり抜けてしまい、そのすり抜けた乳癌が、次の検診を待つ間に出てきてしまう(中間期乳癌)ということで、由々しき事態です。
どうして40代のMMG検診は感度が低いのかというと、若い人ほど乳腺の濃度が高く、分厚い雲のように映るので、小さいしこりが隠されてしまうのです。そのため40代は診療MMGと同じ2方向撮影(左右計4枚撮影)になっているのですが、それだけでは改善しないのです。
【J-START試験は40代が対象】
そこで、40代の検診精度を引き上げるため、超音波検査を併用しようということになり、2007年にJ-STARTという臨床試験が始まりました。40代の健常者72000人以上を、MMG単独検診とUS併用検診に振り分けた上で、初回と翌年の2回検診を行い、あとは両群の経過を追っていきます。最終的な目標はMMG+US併用群において死亡率が低減することを証明したいのですが、その結果は20年を経た2032年頃になるそうです。これまで3回の中間報告がなされており、
2016年の初回報告では、併用群で感度が高くなる(77.0% vs 91.3%)ことや中間期乳癌が減ることが示されました。2021年の第2報では乳腺濃度が低い群でもUSは有用という結果でした。そして2026年春の第3報では15年の累積で、併用群においてステージⅡ以上で発見される乳癌が少ないことが示されました。これは、要するに最初の2年でより多くの早期癌を見つけたため、そこをすり抜けてステージⅡ以上に進む乳癌が減ったということを意味します。
順調にいけば2032年には死亡率の低減が証明されるかもしれません。そうなると公的な検診にも公費でUSが導入されることになります。
【40代と50代以上を区別しましょう】
ここで注意して欲しいのですが、ここまで述べてきたのは40代のお話です。この問題を論じるときは40代の話か、50代以上の話か、きちんと分けて考える必要があります。特にネット上の記事を読むときにこのあたりを意識しながら読まないと、曖昧なまま理解した気になってしまいます。
【公的検診と民間の検診の違い】
民間のドックや乳腺クリニックでは普通に超音波検診が行われているのに、どうして公的な検診では採用されないの? という質問は多いです。難しく言えば、対策型検診と任意型検診の違い、わかりやすくいえば、税金が投入されるか、自費診療かという違いになります。自治体が行う対策型検診は「集団の死亡率を減らす」という大義のもと、そこに多額の税金が投入されます。ですから死亡率が減るというエビデンスが確立しないと実施できないのです。
一方、任意型検診は、個人の利益のために行うものです。「まだ結果はでてないけど、こういう研究があって、よさそうだけど、どうしますか?」「じゃあやってください」という話で成立します。ただし、保険や税金は使えないので自費になります。会社の検診では企業が出しています。
【40代の検診方法は?】
ここまでのお話のとおり、40代についてはUS併用の有用性が確立しつつある段階です。結論こそ出ていませんが、この2026年の第3報でかなり有力と考えられるようになりました。この結果を見る限り40代の方はMMGとUSを併用で、毎年受けるべきと考えます。
【50代以降の検診方法は?】
50代、60代、70代の方につきましては、US併用をテーマにした研究がなく、ガイドライン的には2年毎のMMG検診ということになります。
しかしJ-STARTの成果をみれば、全年齢層でUSを併用してもよいのではないかと考えます。ただ、この年代はMMG検診単独でもそれなりの感度がありますし、US検診の上乗せ効果もそれほど大きくないと思いますから、どこまで上乗せするのかは微妙です。
9人に1人は乳癌になる時代といっても、乳癌にならない確率は89%です。なる確率は11%ですが、特に悪性度の高いHER2型やトリプルネガティブ型は3%ほどです。その3%に備えたい人は、毎年MMG+USを受けるべきですが、そう考えない人もいるでしょう。どこまで望むか、あとは費用面も含めて個人の価値観になります。その方の乳腺濃度や家族歴なども考慮してお一人、お一人にアドバイスできればと思います。ということで、
年齢の割に乳腺濃度が高い人や乳癌家族歴などリスクのある人、高リスクの乳癌が不安な方には
⚫︎40代と同様にMMG+USを毎年受診
をお勧めします。
そうでない方は経済的負担なども考慮してどこまで望むかですが、2年毎より毎年の方がいいと思われますし、USは加えた方がいいと思われますので、
⚫︎市MMG検診(2年毎)+自費USを毎年
⚫︎市MMG検診(2年毎)と自費USを交互に
などのパターンになるかと思います。
【高濃度乳腺の告知について】
60歳でも70歳でも乳腺の濃度が40歳代と同じくらい濃い人もいますし、40代でも乳腺濃度が低い人はいます。このあたりは、個々の受診者に合わせたアドバイスが必要だと思います。
高濃度乳腺をリスク因子として告知すべきかどうかという問題は、米国での裁判事例に端を発して、本邦でも議論になっていましたが、告知後の対応が十分に検討されていないということで、2017年、日本乳癌検診学会を中心として、告知を見合わせる方針となりました。しかし2026年3月、厚労省は告知する方針へと方向を転換しました。今は告知する方針で臨んでいます。